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たばこをやめられない人の脳と心

喫煙者に次のような質問をしたとします。

「あなたは、何故たばこを吸うのですか?」

すると、7割近くの人がこう答えるのです。

「止められないから」


"たばこを吸うと落ち着くから"とか"たばこを吸うと気持ちが楽になるから"とか答えるようであれば、まだいいのです。

さらに"タバコは美味しいし、楽しみだから"

と答えるならば、尚いいと思います。



それは、たとえ健康によくないとか、害があるからとかいう理由だけで人生を選択していないという、個人の価値観を持っている証拠だからです。

そうではない理由…つまり「もう何年も何十年も吸っていて、止められないから」という理由である場合が問題なのです。




たばこをやめたいのに「やめられない」という人の心について、ひとこと。



「やめられない」のでタバコを吸う人は、とても根がまじめな人が多いということです。

たばこを吸うことで、自分を調整しようとします。

無意識の力が弱く、そのような自分を保護しようとし、気丈に振る舞います。

たばこが友達や仲間、好きな人との間をつないでくれますし、つながりを深めてもくれると思っています。

自己許容力は高く、自己評価も高い。

それなのに自分の心に正直になるのをどこかで恐れ、自己に対するアイデンティティがとぼしい。

そして何よりも怖いのは、無意識的に自分自身の主導権をたばこに譲っているということです。

たばこがなければ、一時も落ち着けないほど、自分をたばこの存在に委ねきっているのです。




では、どうして止められないのでしょうか?

本当に止めるという意志が弱いからでしょうか、心の弱さがあるからでしょうか? それとも依存性薬物の一種であるニコチン中毒になっているからでしょうか?






専門家によれば、ニコチンは「興奮」「鎮静」という2つの作用を持っているそうです。

寝不足で朝頭が冴えないときなど、タバコを吸うと頭がすっきりするのが覚醒効果で、いらいらしたり緊張しているときに、1本吸うと落ち着いたようになるのが鎮静効果なのだそうです。便利ですね。

それは、自分の心や感情の状態に応じて、コントロールしてくれるという「調整作用」があるからだというのです。


ではなぜやめられないのか?

その理由を分子生物学的な見地から、ニコチンの働きや作用を研究し、その仕組みを調べたものを発表している内容から紹介してみましょう。

私は専門家ではないので、専門的に述べるのはやめて、簡単に概要を掴みながら説明してみたいと思います。






◎ニコチンと脳の関係

主にたばこの葉っぱに含まれる「ニコチン」という無色の液体は、脳の中にある神経を運ぶ道(報酬経路という)に刺激を与え、ドーパミンという作動性の神経を活性化させるのだそうです。

このドーパミン神経は、個体に快楽をもたらす系統なので、興奮と快の感覚を強化するため、依存性を生み出してしまい、やめやれないのだということが明らかになっています。


(ニコチンは、主に中枢神経および末梢に存在するニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR) に作用することで薬理作用を表すと考えられている。中枢神経において nAChR は広範囲に分布しているため、ニコチンは脳の広い範囲に影響を与える。そのうち、特に依存性の形成に関与する部位として中脳辺縁系のドパミン神経系が挙げられる。中脳の腹側被蓋野、側座核などの nAChR にニコチンが結合すると、直接的あるいはグルタミン酸の放出を介してドパミン系神経細胞の興奮を起こす。このドパミン神経系は「報酬系回路」として知られており、快の感覚を個体に与えるため、強化行動をひき起こす。)ウィキペディアより





◎ニコチンの依存性

このドーパミン神経の興奮を介した依存性の形成メカニズムは、他の依存性薬物(コカイン、ヘロイン、アンフェタミンなど)と同じなのだそうです。

中脳では、ドーパミントランスポーター(DAT)というたんぱく質を作る遺伝子があり、ドーパミンを神経終末に回収する働きを持っています。いわゆる出入り口のような所です。依存性の薬物である覚せい剤などが、脳に到達してからまずどこに結合するのかというと、このDATなのだそうです。DATの入り口を覚せい剤が塞いでしまい、ドーパミンが行き場所を失ってしまうのです。すると、ドーパミンは本来興奮と快楽をもたらす経路が異常に働き出してしまい、その結果幻覚や妄想を見たり、行動に異常が起こったりするのです。



マウスを使ってこの発見をしたことで、実はたばこがやめられないのは、単純な分子の異常なふるまいで説明できるかもしれないという、新しい可能性を見いだすことができたのです。


◎脳と心の動きとの関係

たばこがやめられないのは、実は心や精神の問題でも、意志が弱いという問題でもないことが認められつつあるということなのです。

脳内にある「報酬経路」「ドーパミン」「DAT]という3つのキーワードに刺激を与える可能性のある化学物質や薬物であれば、どんなに意志の強い人間でも、心のしっかりした人でも、心は乱れ、精神や行動には異常を引き起こすことがあるということなのです。





ここで少し別の視点から刺激を考えてみます。


小さな子どもに見られる習慣性のある行動について、お子さんを持つ方なら理解できるかもしれませんが、例えば無意識のうちにおちんちんを触るとか、指しゃぶりをするなど不安な要素を治めようとするものがあります。

また、成人男性であれば女性の美しい写真や、甘い匂いなどによって快楽への感情が高まることもあるかもしれません。

女性が妊娠後、自分のお腹の中で胎児の胎動を感じたときなども、一種の感応という類に共感する感情かもしれません。


それらの行動や感情を引き起こすのは、本能や欲望だと考えるのが普通でしょうし、人間であれば自然のことだと考えることでしょう。


でもそれらがもしかしたら、この報酬経路に刺激をあたえる分子に反応しているだけなのかもしれないという可能性があるとしたら…!


これらにあげたいくつかの例は、習慣性があり、依存性があり、興奮を引き起こしてはいませんか? 
また快楽が異常に働きすぎると、DATが塞がれてしまい、心も身体も乱れて精神や行動に異常が引き起こされることはないでしょうか?






人間の心は、それほどに単純な一面もあるということを、発見するのです。



タバコを吸うことで、脳内物質を活性化させる。

すると近くにあるドーパミン神経に刺激を与え、快楽をもたらす経路を強化し、興奮や鎮静が引き起こされる。

また刺激が欲しくなると、ニコチンで身体に快楽現象を引き起こそうとタバコをくわえる…

これほど分かりやすい単純なメカニズムによって、人はニコチンの刺激から離れることが出来ないのです。



このような分子レベルでの生物科学的論証を見てみると、

最初に書いたように、健康によくないとか、害があるからとかいう理由だけでタバコをやめようとするなら、それは無駄なことなのではないでしょうか。



快楽を求めようとする本能を、理性で抑えようとすることに等しいからです。

「もう何年も何十年も吸っていて、止められないから」という理由でやめられないのも、それが依存性と中毒化によってやめられないのではなく、快楽を求める本能を止められない、というのが本当の理由だからです。



たばこをやめるには、たばこを吸う異常にドーパミンに刺激を与えることのできる快楽とか、お腹の胎児にタバコの害が直接影響するという母性本能に刺激を与える方法とか、たばこを吸う以上に喜びと刺激のある体験を与えるなどのように、もっと本能的に勝利できる魅力的な理由がないと、やめられないと考えるのも一理あるような気がします。



遺伝子が明かす脳と心のからくり―東京大学超人気講義録

遺伝子が明かす脳と心のからくり―東京大学超人気講義録

石浦 章一


ちなみにかく言う私も一時はたばこを吸い続けていました。

量は多くありませんでしたが、精神的に落ち着かせる作用があったことを十分に認め、タバコの支配下にあったことも認めます。

タバコをやめて8年以上たちますが、今ではタバコの害を考える以上に、自分がタバコに支配されていないことを喜んでいます。

私はタバコが決して悪いものだとは思いませんし、意志が弱いからやめられないのだとも思っていません。

そこにはもっと本当の理由があると思ったのです。

私は、上のようなドーパミン神経という報酬経路説を発見し、理解と納得できるものだと考えます。
タバコをやめられない方には、脳への刺激を別のもので与えることを

お薦めしたいと思います♪

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